第039号 美しい風景を残すまち

 広島県尾道市をご存知でしょうか。海に面した山の斜面にできたまちで、山
から見下ろす島影が素晴らしい瀬戸内有数の景勝地です。
 このまちは、きつい勾配の山の斜面に、たくさんの歴史・文化施設・住居が
昔の姿そのままに残っていて、古くは松尾芭蕉により海を眺める景色を絶賛さ
れ、明治に入っては正岡子規・林芙美子などが訪れ、その光景を愛し、住まい
を構えたりしました。
 尾道市を実際に訪れると、坂道の多さにまず驚かされます。それも車の入れ
ない狭い階段上の坂道です。宅配便の業者さんは、このまちでは荷物を担いで
お客様に届けているというCMがかつて有名になりました。ある程度坂道を登る
と、眼下には、時代ごとの文学者によって愛された美しい瀬戸内海の景色が広
がっています。
 尾道市は、古寺や文学者の旧住まいを残すなど、大規模な開発を行わずに、
昔ながらの光景を大事にしてきました。 急な坂道が多いために、開発が難し
かった面もありますが、そのため坂の多いまち、昔のたたずまいを残すまちと
して知られるようになり、市の積極的な訴求もあって、映画「時をかける少女」
といった古い街並を必要とする映画や、「さみしんぼう」「転校生」など坂道
が重要となる映画のロケ地にもなったほどです。
 このように、元々あったまちなみと美しい景色を残していることと、文学者
などが昔から情緒ある光景を愛してきたことをうまくアピールすることで、尾
道市は、多くの人が訪れるようになっています。
 全国には開発が困難な場所に立地していたり、過疎化が進んでいたりなど、
様々な理由で古い街並み術が残っている地域がいくつもあります。裏返して考
えてみると、まちが昔の姿を留めているということでもあり、そのまままちの
長所としてアピールしていくこともできるのではないでしょうか。
 長所と短所は表裏一体の面を持ち合わせており、物事の短所も見方によって
は長所ととらえることができます。船井流経営法の一つに「長所伸展法」とい
うものがありますが、この考え方は今回の話にそのまま当てはまります。
 どのような長所に着眼し、それをどう磨きあげていくかで、まちの価値は変
わってきます。まちおこしには様々な方法がありますが、尾道市は開発が難し
いなどの短所を、古いたたずまいや昔ながらの風景が残っているという長所と
とらえ、それを伸ばしていくことで、価値を高めた事例を言えます。
(小林 祐司)

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