第035号 おもてなしのこころ

 最近、耳を疑うような話を聞きました。若者に四国遍路が流行っているとい
う情報です。四国遍路体験者の私としては、この情報を見逃せずにはいられま
せん。
 ご存じの通り、四国遍路とは弘法大師と崇められる空海が四国88箇所に開
いたとされる、霊場各所を巡り歩く巡礼の旅です。現役を退いた人達が、団体
旅行や退職後の楽しみとして霊場を訪れ賑わっている、というのがこれまでの
一般的な評判でした。
 ところが最近若者のなかで四国遍路にハマってしまう人が続出しているとい
うではありませんか。しかも「心の迷いを断ち切りに」等と抱える悩みもシリ
アスそのもの。以前の海外放浪ブームとは一線を画す現象です。
 これらの四国遍路を経験した若者たちが口を揃えて言うことは、「地元のひ
とに暖かく迎えてもらった」という一言。お遍路の文化が残る地域では、「お
接待」と言って、巡礼者へ食べ物や心づけ、一晩の宿を貸す風習が残っていま
す。人生経験の少ない若者ならではのちょっと甘えた考えも見え隠れしますが、
おおむね地元の人の心配りに何か感じ入るモノがあるようです。人との関わり
を絶って旅に出る遍路道中にあって、地元の人のおもてなしに触れることは、
彼らにとって大きな衝撃として受けとめられているのかもしれません。
 たまたまやってきたお遍路で運命的な出会いをし、農村への魅力を見いだし、
町の活動に関わるうちに、とうとう高知に引っ越すことを決意した若者が、熱っ
ぽい口調で語っているのを目の当たりにし、何がそこまで彼を引き込ませる原
因になったのか、私なりに考えてみました。察するところ、その原因とは地元
の人達との交流・おもてなしの心にあったのではないかと思うのです。
 このことはまちおこしにも当てはめることが出来ます。観光需要やイベント
集客によるまちおこし手法が重要視されがちですが、観光やイベントによる集
客はあくまできっかけであり、一過性のものに過ぎません。このことはドラマ
のロケ地やイベント会場の跡地の顛末が、その危うさを物語っています。
 たとえ町を訪れたきっかけは何であったとしても、必ず町の人々とのふれあ
いが発生します。そこで訪れた観光客の心をつかみ、再度訪れようと思わせる
ためには、訪問者を出迎える一人一人のおもてなしのこころが最も重要ではな
いのでしょうか。
(増島 清人)

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