第030号 まちぐるみでノスタルジー空間!

 黒川温泉に行ってまいりました。以前に黒川温泉郷の観光旅館組合理事の松
崎郁洋氏とのお話を第10号と12号でご紹介しましたが、実際に足を運んで
みると、年間100万人以上の観光客が訪れるだけあって、狭い温泉郷の中を
人や車が行ったり来たりと深い山中とは思えないにぎわいがあります。
 黒川温泉へのルートはいくつかありますが、今回は阿蘇のカルデラ地帯を越
えていくルートを通りました。深い森の中を走り続け、「本当にこの先にある
のかな。」と不安に思いつつ進んでいくと、看板が一つあります。看板と言っ
ても茶色に塗った丸太を組み、白い文字で「黒川温泉」と書かれただけの、本
当に素朴な看板です。その後、再び派手さのない丸太組の素朴な看板がありま
した。レトロな看板が続き、不思議な雰囲気にとらわれつつ、やっと黒川温泉
にたどり着くと、そこには茶色に統一された温泉宿がズラリと並んでいました。
名物である数々の手作り露天風呂は、森の中に自然と泉が湧き出したかのよう
であり、道のガードレールは茶色に塗られ、自然の風景に溶け込むよう工夫さ
れていました。温泉街を歩きながら、日本の古き素朴な時代にタイムスリップ
したかのような気分になり、とても懐かしく、心地良い気持ちにさせられまし
た。
 黒川温泉がこのように感じられ、観光客の支持を得ている要因として、徹底
的なノスタルジー空間の創出が考えられます。看板を含む温泉へのアクセスルー
トから、温泉街の中、そして温泉を後にするまでの空間が、深い山中にある癒
しの温泉や非日常さを感じさせる温泉のイメージに統一され、心の癒しを求め
る現代の人々にとっては、たまらない場所になっているのです。
 商業施設でノスタルジー空間を演出する手法は、新横浜のラーメン博物館や
千葉の湯けむり横丁などいくつもありますが、黒川温泉のように、まちなみ全
体を統一させることは、様々な立場の人達が関わるまちおこしにおいては、非
常に難しいはずです。
 黒川温泉の人々は、若い経営者の方々の努力もあり、この難関を乗り越え、
まちぐるみで徹底したノスタルジー空間の創出を実現させました。
 いくつかの露天風呂を堪能し、温泉街を後にするときは、もうとっぷりと日
が暮れていました。遠ざかる道中は、月明かりもない真っ暗闇で、やっととな
り町の風景を目にした時には、さっきまで本当に黒川温泉に自分がいたのかと
疑ってしまうほどギャップを感じましたが、黒川温泉の印象だけは強烈に残っ
ていました。
(小林 祐司)

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